決議・声明・意見書
政治家へのテロを許さず,言論の自由を守るための会長声明

  本年8月15日の夕刻,山形県鶴岡市内の自民党元幹事長で衆議院議員の加藤紘一氏の実家と事務所とが全焼した。新聞報道によれば,山形県警は放火によるものと断定し,現場で割腹により重傷を負い倒れていた右翼団体に所属する男性の犯行の疑いがあるとして同団体に対する捜索などの捜査中とのことである。
  折りしも当日は小泉首相が全国民的な注目の中で終戦記念日に靖国神社に参拝したことが大々的に報道され,これに対して加藤議員がマスコミ各社へのインタビューにおいて首相の靖国神社参拝を批判する見解を述べ,その発言も同時に報道されていた丁度その当日に起こった放火事件であった。このためこの放火事件は小泉首相の靖国神社参拝についての加藤議員の批判発言に対して,放火という暴力的手段によって抗議しようとした政治テロ行為である可能性が濃厚である。
   事件としては未だ捜査中であり,事件の真相のすべてはまだ明らかとはなっていない。しかしこのような政治家の身の回りに対するテロ・暴力事件の発生は,決して加藤氏一政治家の問題には止まらないものである。それによって他の政治家や他の諸団体,更には国民の言論の自由や政治活動の自由をも牽制し,批判する自由や自由な意見発表などの言論を萎縮させる効果をもたらし,ひいてはマスコミの報道の自由に対してさえも悪影響を与えるおそれがある。このような政治テロはわが国の民主主義の発展に対して重大な悪影響を与える効果をもたらすことに注意しなければならない。
   特に間もなく自民党の総裁が交代し新政権が発足する予定である。中でも総裁の有力候補者は先日その政権構想として憲法改正を具体的政治日程に乗せることを発表した。 憲法改正の問題は民主主義国家としてのわが国最大の政治問題である。憲法改正の当否についての議論こそは徹底的に自由な言論の許で行なわれなければならないものである。 政治家はもちろん,国民もマスコミも言論の自由,表現の自由,報道の自由が保障されなければならない。自由な議論や論争によってしか,民主主義を保障した憲法を守ることはできないものだからである。 今回のような政治家の言論をテロ・暴力によって封殺するような行為は断じて許されない。そのような国民世論を形成し広げて行くことが極めて大切である時期が迫っているということができる。
   私達長崎県弁護士会は,わが国の民主主義を守るためには憲法で保障された言論の自由,思想信条の自由そして政治活動の自由は絶対に守り通さなければならないものであると考える。今回の放火事件がそのような自由を否定し,自由な発言や行動をテロという暴力によって封殺しようとする疑いが濃厚であることから,この事件を契機としてこの声明によって言論の自由などの表現の自由及び政治活動の自由の大切さを強くアピールするものである。

 

2006年(平成18年)8月30日
長崎県弁護士会   
会長 水上正博