決議・声明・意見書
労働時間規制の緩和に反対する声明

 日本の労働者の労働時間は,他の先進国と比較して異常に長い。OECDが,2014年3月7日に,「国際女性デー」にあわせて発表した,「男性」の1日当たり平均労働時間(休日も含む)は,日本は375分と,26か国平均の259分より2時間近く長く,OECD26か国中最長である。男性・女性トータルの平均労働時間も,日本は373分で,26か国平均の268分より100分以上長く,OECD26か国中最長である。労働者の生命・健康,ワークライフバランス保持,過労自殺及び過労死防止の観点から,法定労働時間を超える時間外労働をなくし,長時間労働を抑止することは,喫緊の課題である。
 法定労働時間である1日8時間労働制は,日本では,1947年の労働基準法(以下「労基法」という。)で初めて採用されたものであるが,世界的には長い歴史を持つ。1886年5月1日に発生したシカゴ・ヘイマーケット事件では,労働者が,「8時間は仕事のために,8時間は眠るために,そして8時間は働く者の自由のために」をスローガンに,ストライキに立ち上がり,これが現在のメーデーの起源となった。その後,1919年に,国際労働機関(ILO)の第1号条約において,8時間労働制が規定され,国際的労働基準として確立している。
労働時間規制は,労働法において,最も本質的で重要なものである。労働者が家族と過ごす時間,文化的生活を過ごす時間を持てるよう,8時間労働が原則なのである。
 しかるに,政府は,本年4月3日,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定した。本法案は,「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」を創設し,高度専門的知識を要する業務において,年収が平均給与額の3倍の額を相当程度上回る等の要件を満たす労働者については,労基法で定める労働時間並びに時間外,休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないものとしている。また,本法案は,これとは別に,既に存在する企画業務型裁量労働制についても,対象業務を拡大するとしている。
 本法案の基礎となった2015年2月13日付け厚生労働者労働政策審議会労働条件分科会の報告書によれば,上記改正の目的は,長時間労働の抑止と,時間でなく成果で評価される高度な専門能力を有する労働者が,意欲や能力を十分に発揮できるようにしていくことにあるとされている。
しかし,時間外労働に係る上限規制の導入や,全ての労働者を対象とした休息時間(勤務間インターバル)規制の導入については,報告書段階において,「結論を得るに至らなかった」として見送られ,喫緊の課題であるはずの長時間労働抑止への実効性ある対策を,早々に放棄された。他方で,2006年に世論の反対で国会提出が断念された,「ホワイトカラー・エグゼンプション」に類似した,「高度プロフェッショナル制度」を創設し,対象業務に就く労働者について,労基法第4章で定める労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用除外を謳っているのである。
 本法案で導入される「高度プロフェッショナル制度」については,現在管理監督者についても適用されている深夜労働規制も含め,労基法のあらゆる労働時間規制を適用しないとするもので,事業主は一切の時間外労働に対する割増賃金を支払う必要がなくなり,更なる長時間労働を助長しかねない。日本弁護士会連合会が2015年1月に米国のホワイトカラー・エグゼンプションの調査を行った結果でも,エグゼンプト労働者は,週40時間以上の労働者の割合が44%,非エグゼンプト労働者は,週40時間以上の労働者の割合が19%と,エグゼンプト労働者の労働時間が長くなっており,社会問題化している実態が判明している。また,「高度プロフェッショナル制度」の対象業務の範囲や年収要件の詳細は,省令に委ねられており,今後対象範囲が容易に拡大されるおそれがある。
また,企画業務型裁量労働制については,労働時間が「みなし労働時間」とされているため,正確な労働時間統計が存在しないものの,2013年10月に独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った同制度の対象労働者へのアンケート結果によれば,不満を持つ労働者のうち,最も多い不満は「労働時間が長い」であり,43.2%を占めている。このように労働時間が長時間化する傾向が顕在化していることに鑑みれば,長時間労働を招く危険のある企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大には,慎重であるべきである。
 厚生労働省統計によると,長崎県は,労働者1人平均年間総実労働時間が2009年から3年連続全国ワースト1を記録したとのことである。
よって,当弁護士会は,さらなる長時間労働を助長する危険性が高い本法案に反対する。

 

2007(平成19)年4月25日
長崎県弁護士会   
会長 山下 俊夫