決議・声明・意見書

2017年(平成29年)9月19日

内閣総理大臣 安倍晋三 様
財務大臣   麻生太郎 様
総務大臣   野田聖子 様
内閣府特命担当大臣(消費者および食品安全)江鐵磨 様
消費者庁長官 岡村和美 様

長崎県弁護士会
会長 川 添   志

地方消費者行政の一層の充実・強化を求める意見書

第1 意見の趣旨

1 地方消費者行政推進のための交付金の継続

 国は,地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領について,2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用対象を限定している点を,2018年度(平成30年度)以降の新規事業に適用対象を含めるよう改正するとともに,消費者行政の相談体制,啓発教育体制,執行体制等の基盤拡充に関する事業を適用対象に含めるよう改正し,同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。

 

2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担

 国は,地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち,消費生活相談情報の登録事務,重大事故情報の通知事務,違反業者への行政処分事務,適格消費者団体の活動支援事務など,国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について,地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。

 

3 地方消費者行政職員の増員と資質向上

 国は,地方消費者行政における法執行,啓発・地域連携等の企画立案,他部署・他機関との連絡調整,商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上に向け,実効性ある施策を講ずべきである。

 

第2 意見の理由

1 地方消費者行政の整備の現状と今後の必要性

⑴ 消費者被害の深刻さの増大

 全国の消費生活センターに寄せられる消費者被害やトラブルに関わる苦情相談件数は,1985年までは10万件以下であったものが,その後激増した後,最近10年程は90万件前後で推移しており(国民生活センター「2015年度のPIO−NETに見る消費生活相談の概要」),過去30年間に約10倍に増加したまま高止まりの状態にある。

 とりわけ,高齢者の消費者被害・トラブルが増加の一途をたどっており相談受付件数全体に占める60歳以上の高齢者の苦情相談件数の割合は,2006年度23.1%から2015年度34.3%と約5割の増加を示している(国民生活センター「2015年度のPIO−NETに見る消費生活相談の概要」)。判断力が低下した高齢者の弱い立場につけ込む悪質商法・詐欺商法が深刻さを増しており,社会全体にとって由々しき事態として消費者行政による本格的な被害防止対策が求められている。

なお,長崎県消費生活センターの統計によると,相談件数全体に占める60歳以上の高齢者の苦情相談件数の割合は増加傾向にあり,平成28年度の相談件数全体に占める60歳以上の高齢者の苦情相談件数の割合は,38.6%となっている。

 しかも,過去1年間で消費者被害・トラブルに遭った経験者は地域住民の10.9%に上るにもかかわらず(消費者庁「平成28年版消費者白書」97頁),被害・トラブルにあった人の中で消費生活センター等の行政の相談窓口に相談・申出をした人は,わずか7.0%にとどまる(同白書98頁)。つまり,年間90万件に上る苦情相談件数は,あくまでも氷山の一角に過ぎない。

 さらに,消費者庁の推計によれば,潜在的な被害を含む消費者被害・トラブルの合計金額の推計額は,2015年は約6.1兆円に上る(同白書135頁)。つまり,国家予算約98兆円の約6%に上る被害が,毎年,地域社会の中で発生しているのである。

 

⑵ 地方消費者行政予算・消費生活相談体制の拡充

 この間,地方公共団体の消費者行政予算は,2000年度165億円から2008年度101億円と約39%も減少していたところ,2009年の消費者庁の創設及び地方消費者行政の拡充が議論されたことにより,地方消費者行政に特定した財源である「地方消費者行政活性化交付金」等の交付措置により,ピーク時の2011年度には約181億円にまで達した。その後,「地方消費者行政推進交付金」に変更して継続され,2015年度は148億円の実績となっている(同白書22頁)。

 地方消費者行政の推移を見ると,消費生活センターの設置数は2009年度501か所から2015年度786か所に増加し(同白書26頁),その他の地方公共団体も,2015年度末までに,消費生活センターの要件は満たさないものの何らかの消費生活相談窓口を全ての自治体が設置するに至った(同白書23頁)。消費生活センターで相談を担当する有資格者である消費生活相談員の配置人数も,2009年度2800人から2015年度3367人へと増加した(同白書30頁)。もっとも,前述の消費生活相談件数の推移をみると,消費生活センター・相談窓口の増加が相談受付件数の増加に連動していないことが窺われるため,地域住民への周知はさらに必要である。

 また,地方公共団体は,同交付金を活用して,消費者向けの啓発・教育の事業も展開してきた。しかし,被害に遭いやすい高齢者や若年者に対し被害防止のための有効な情報が届いていないという問題が残されている。

 

⑶ 地方消費者行政の地域連携体制・職員体制の未整備

 消費者庁は,2014年,消費者安全法を改正し,高齢者福祉関係者やその他の民間関係者による高齢者見守りネットワークが消費者被害防止に向けて活動できるよう,「消費者安全確保地域協議会」を設置することを規定し(消費者安全法第11条の3),2016年4月に施行した。消費者庁が策定した「地方消費者行政強化作戦」は,消費者安全確保地域協議会を人口5万人以上の全市町(516自治体)に設置する目標を掲げた。しかし,改正消費者安全法施行時には,全国の都道府県・市町村のうち13自治体しか地域協議会を設置しておらず,2017年1月時点でも人口5万人以上自治体のうち21市(他に4道県,5万人未満の6市町)しか設置できていないのが実情である。

 

 また,都道府県の消費者行政担当課には,悪質訪問販売業者や悪質サイト業者に対する特定商取引法による行政処分権限が付与されており,被害拡大防止の役割が期待されている。しかし,都道府県による法執行件数を見ると,2009年度は業務停止命令75件,指示が15件で,ピークの2010年は業務停止命令が115件,指示が20件であったが,その後減少に転じ,2015年度は業務停止命令が37件,指示が17件となり,2016年度は平成29年3月28日現在で業務停止命令が22件,指示が6件と大幅に減少している(消費者庁「特定商取引法に基づく処分件数の推移」)。しかも,2013年度以降の行政処分件数が0件の自治体が17もある(同上)など,地域間の格差が顕著となっている。

 その背景として,地方公共団体の消費者行政担当事務職員が消費者庁設置以降も減少傾向をたどっていることが挙げられる。すなわち,1999年度が10,308人であったのが,2008年度は5,646人へと10年間で約45%減少し,消費者庁設置以降も2016年度は5,320人と8年間でさらに約8%も減少しているのである(消費者白書17頁)。

 

⑷ 地方公共団体の政策判断の立ち遅れ

 2009年度には地方交付税の基準財政需要額について,消費者行政関連事項を倍増する措置を講じたが,その後の地方公共団体の消費者行政関係の独自予算はほとんど増えていないのが実態である。これは,地方公共団体の政策判断が消費者行政重視に転換できていないことを示すものである。

 明治以来の産業育成中心の行政の役割から,地域住民の暮らしの安全確保の役割へと根本的な価値の転換を掲げて,消費者庁・消費者委員会が創設されたが,地方公共団体における政策判断の転換が進んでいない実態を踏まえれば,国から地方への強力な政策展開をしばらくの間継続することが不可欠である。

 

2 地方消費者行政推進交付金の適用対象事業・期間の延長

⑴ 使途特定財源による消費者行政の整備

 国は,2009年度以降,地方公共団体に対し,地方消費者行政の拡充強化を支援するため,「地方消費者行政活性化基金」や「地方消費者行政推進交付金」を交付し,公共団体による主体的な強化を支援してきた。また,2014年1月には,「地方消費者行政強化作戦」を定め,相談体制の整備その他の事項について具体的な数値目標を掲げて推進してきた。

 さらに,地方消費者行政推進交付金の実施要領は,2017年度までの新規事業を適用対象事業として限定的に定めることにより,地方公共団体が早期に積極的な体制整備に取り組むことを促してきた。

 消費生活相談体制が一定程度整備されてきた実績は,こうした国の支援方策の成果として評価することができる。

 しかし,ほとんどの地方公共団体の政策判断が消費者行政重視に向けて転換しておらず,交付金を活用し切れていない実情を踏まえれば,仮に,交付金の適用対象事業を2017年度までの新規事業に限定する現行実施要領のままであれば,取組が遅れている地域は交付金による体制整備の道が閉ざされて後退することとなり,地域格差が一層拡大するおそれがある。

 そこで,地方消費者行政担当職員の配置の拡充や資質向上に向けた施策についても,国は積極的に取り組むことが求められる。

 

⑵ 地方消費者行政推進交付金の実施要領の改正

 以上の検討を踏まえ,地方消費者行政推進交付金の実施要領を改正し,2018年以降の新規事業も適用対象に加えるべきである。さらに,消費生活相談体制の充実・強化とともに被害防止のための出前啓発講座等の啓発活動や悪質業者排除の法執行が一層重要となっていることに鑑み,消費生活相談員の増員及び処遇改善,教育啓発担当の消費生活相談員及び職員の増員,法執行担当職員の増員及び専門性向上等の人的基盤強化についても,適用対象に位置付けるべきである。そして,交付金の実施期間は,これまで8年間の地方消費者行政に対する交付金の給付によっても最低限の体制整備が未達成であることに鑑み,少なくとも今後10年間は必要であろうと考えられる。

 なお,以上のような内容の交付金措置を実施することについては,地方消費者行政推進交付金の実施要領の改正という方法にこだわらず,新たな交付金措置を導入する方策を含めて,実効性ある特定財政支援策を設けるべきである。

 地域の消費者被害を防止・救済する事務は,基本的に自治事務として位置付けられることは相当であるが,担当職員の配置や資質向上,地域の関係機関・関係団体との連携体制の構築,都道府県の法執行担当職員の拡充など,全国の最低限の体制整備が未だ進んでいない現状においては,国から地方公共団体に対し財政支援と人的体制整備の支援を引き続き相当期間にわたり重点的に取り組むことが必要である。

 2016年のうちに,全国知事会等の地方公共団体関連4団体ならびに20都道府県が,地方消費者行政の拡充に向けた国の財政措置を要望する意見書を提出していることが,何よりも地方の実情を示すものといえる。

 

3 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担

⑴ 地方財政法第10条の定め

 地方財政法第10条は,「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であつて,国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち,その円滑な運営を期するためには,なお,国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては,国が,その経費の全部又は一部を負担する。」として,全国的に影響する事項や地域格差を解消し最低限の水準(ナショナルミニマム)を確保すべき事項を列挙している。

 

⑵ 消費生活相談情報等の収集事務の人件費

 地域で発生する消費者被害の防止・救済の事務は基本的に自治事務だとされている。消費生活センターにおいて地域の消費者の相談を受け付け助言する部分を見れば,確かに地域の住民サービスの性質を有するであろうが,相談処理に当たり法令違反行為の有無を聴取し,その相談情報を法令上の義務としてPIO−NETに登録して全国で情報共有し,悪質業者の排除等の法執行に活用することは,広域的被害を防止する国の消費者行政事務のうち情報収集事務を地方公共団体が担っているものだと評価できる。

 また,消費者安全法に基づく重大事故情報を地方公共団体から国に通知する業務も,国の消費者被害情報の集約事務の一端を法令に基づいて地方公共団体が分担していることにほかならない。

 

⑶ 法執行事務の人件費

 インターネット取引被害や電話勧誘販売被害などに見られるように,消費者被害を発生させる事業活動の多くは広域的に活動する事業であり,地方公共団体が違法な事業者を早期に規制して被害の拡大を防止することは,国が対応すべき事務を地方公共団体が担っていると見ることができる。

 この観点から見ると,都道府県が特定商取引に関する法律(特定商取引法)や不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に基づき違反業者に対する行政処分を執行することは,我が国の市場の公正を確保する役割を地方公共団体が担っていると評価することができる。ところが,近年は地方公共団体による法執行件数が大幅に減少している状況にあり,その大きな原因は職員不足にあると指摘されている。

 

⑷ 適格消費者団体の活動運営費

 適格消費者団体は,消費者契約法,特定商取引法,景品表示法等の違反行為の差止請求業務を通じて,我が国の市場の当契約条項や不当表示を監視している。これらの業務によって取引の公正を確保する役割を担い,これも国の事務の一端を民間団体が担っていると評価することができる。

 長崎県においても,適格消費者団体を目指すNPO法人「消費者被害防止ネットながさき」がすでに立ち上がっており,適格消費者団体としての認定取得に向けて現在活動中である。そして,同法人の活動運営は,会員からの会費及び協賛者・団体からの寄付金だけでは必ずしも立ち行かず,長崎県からの補助金を受けて継続することができているのが実情である。そのため,国からの財政支援が減少すると,長崎県の消費者行政予算も減少し,その結果,同法人への補助金が減少すれば,最終的に同法人の活動運営に支障をきたすおそれさえある。

 そのような事態が全国で生じた場合,我が国における取引の公正を監視・是正する担い手が減ってしまうのであり,我が国の消費者行政全体の後退につながりかねない。

 

⑸ 地方財政法第10条の改正

 よって,地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち,消費生活相談情報のPIO−NET登録,重大事故情報の通知,法令違反業者への行政処分,適格消費者団体の差止関係業務などは,国と地方公共団体相互に利害関係がある事務であり,消費者被害防止のために全国的な水準を向上させる必要性が特に大きい事務として,地方財政法第10条を改正して,消費者被害防止に係る情報収集及び法執行に係る事務を規定し,地方公共団体においてこれを担当する職員・相談員の人件費等の予算の相当割合について,国が恒久的に負担すべきである。

 なお,適格消費者団体の活動への国の財政支援は,地域の民間団体の実情に応じて支援する必要があるため,基本的に都道府県を通じた支援として実施することが相当である。

 立法に当たっては,生活困窮者自立支援法第9条及び地方財政法第10条34号が生活困窮者自立相談支援事業等に対する国の負担を定めていることを参考にすべきである。

 

4 地方消費者行政職員の増員と資質向上

 国から地方公共団体へのこれまでの交付金等による働きかけにもかかわらず,地方公共団体において消費者行政に独自の財源と人員を重点配置できていない根本原因は,地方公共団体における消費者行政の重要性に見合った取組をするという政策判断の転換ができていないことであると指摘せざるを得ない。

 地方消費者行政推進交付金のように消費者行政関連事業に使途が特定された財源は,消費生活相談体制の整備や啓発事業の強化に利用することができるが,消費者行政担当職員の配置は地方公共団体の独自財源でなければならないため,地方公共団体の政策判断が転換されていない現状では,担当職員の増員はほとんどの地方公共団体において実行できていないのである。

 これまでの地方消費者行政に対する国の財政支援は,消費生活センター・相談窓口の設置と消費生活相談員の配置及び資質向上,消費者啓発・教育の実施等を重点課題として行われてきた。しかし,今後の地方消費者行政の役割は,地方公共団体内の他部署との連携による高齢者見守りネットワークの構築や官民連携によるきめ細かな消費者啓発・見守りの実施が重要課題とされている。言い換えれば,これまでは消費生活センターを設置し消費生活相談員を配置すれば,後は基本的に消費生活相談員による苦情相談事案の個別処理で足りていたのに対し,今後は消費者行政担当職員が取組の中心的存在として,消費者安全確保地域協議会の設置や見守り活動の推進等のコーディネーターの役割を果たすことが求められているのである。

 その意味では,今こそ消費者行政担当職員の役割の重要性を注目すべきであり,こうした取組がまさに緒に就いたばかりである。

 さらに,違法な事業活動に対する法執行件数が減少している現状や,商品事故に関する原因究明や商品テスト担当職員が減少している現状に対し,消費者行政担当職員の配置と専門性向上の施策が重要な課題である。

 したがって,地方公共団体の消費者行政担当職員の配置人数を増やすことや,兼務が大半の市町村職員については専任職員の増員とともに兼務のうち消費者行政の比重をできるだけ高めることなど,職員体制の拡充強化が国にとっても喫緊の課題である。

 さらに,これまでは商工関連部署の中に消費者行政が位置付けられている自治体が多いのに対し,今日的な消費者行政の役割に照らせば,福祉部門や住民生活部門の中に消費者行政部署を位置付けることも,庁内連携や地域連携を促進する上で効果的ではないか検討が求められる。

 そこで,国は,地方消費者行政の担当職員の職務が,法執行部門,啓発・教育分野,地域連携の企画推進分野,他部署・他機関との連絡調整など,多様な課題を担う必要があることを踏まえ,職員の資質向上に向けて,国民生活センターによる研修実施や教材提供を一層拡充するなどして,各都道府県が管内市町村職員向け研修を実施できるよう,財政的・人的支援を強化すべきである。

 さらに,国は,地方消費者行政担当職員の配置の目安を示すことや求められる専門的資質の水準を示すなど,職員の増員と資質向上に関する具体的な政策を検討すべきである。

以上



 本年6月15日,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益等の規制等に関する法律の改正案(以下「共謀罪法案」といいます。)が参議院において,中間報告によって委員会における採決を省略する形で可決され,成立しました。

 

当会においては,2017年(平成29年)2月14日付で,共謀罪法案に反対する声明を,同年5月31日付で,共謀罪法案の衆議院での可決に抗議する声明を発し,「その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑若しくは無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪等を実行することにある団体」などの定義自体が不明確であり罪刑法定主義に反すること,適用範囲が広範に過ぎること,思想良心の自由や表現の自由といった憲法上の権利の行使を萎縮させることになることなどの共謀罪法案の問題点を指摘してきました。

 しかしながら,二度にわたる会長声明で指摘した問題点が何ら解消されないまま共謀罪法案が成立してしまう事態に至りました。

 また,参議院においては,中間報告によって法務委員会における採決を省略する形で共謀罪法案は可決されました。国会法は,「特に必要があるとき」は,中間報告を求めることができ(同法56条の3第1項),議院が「特に緊急を要すると認めたとき」は,議院の本会議において審議することができる(同条第2項)と定めていますが,共謀罪法案について,中間報告を求める必要性や本会議において審議する緊急性があったとは考えられません。

 問題点が多く,人権侵害の危険性が高い共謀罪法案について,法務委員会の採決を「省略」したことは,議会制民主主義の否定につながりかねません。問題点が多い法案こそ,十分な審議を尽くし,国民の理解を得る努力を行うことが,議会に求められている役割なのではないでしょうか。

 当会は,共謀罪法案が成立したことに強く抗議するとともに,憲法に違反するおそれの大きい同法の廃止を強く求めます。また,同法が廃止されるまでの間,決して同法が捜査機関に濫用されることのないように,刑事弁護等の活動を通じながら,同法の適用状況を厳しく監視していきます。

 

 

2017年(平成29年)7月10日
長崎県弁護士会   
会長 川 添   志

 



1.平成28年(2016年)12月15日に、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「IR推進法」という。)が成立した。

 IR推進法は、平成25年(2013年)12月に国会に提出されるも、実質的な議論が行われないまま一旦廃案となり、その後平成27年(2015年)4月に国会に再提出されたものの、1年半以上もの間全く審議されることのないまま、平成28年(2016年)11月30日、衆議院内閣委員会で突如として審議入りし、十分な審議を経ることもなく、極めて拙速に成立するに至ったものである。

 

2.ギャンブル依存症対策が不十分であること

 IR推進法第10条第8号は、参議院内閣委員会の修正意見に従って、政府が、「カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴いギャンブル依存症等の悪影響を受けることを防止するために必要な措置に関する事項」を講ずることを定めている。これは、同法律施行によりカジノが解禁されることから、ギャンブル依存症等の悪影響が生じる危険性があることを示唆するものである。
   平成26年(2014年)8月に公表された厚生労働省の調査によれば、我が国のギャンブル依存症者数は推計536万人にのぼり、これは成人人口の約4.8%にあたる。この数字は、世界各国の成人人口におけるギャンブル依存症者数の割合が1%前後であることと比べると5倍程度に及ぶものであり、このことは、現時点で、政府がギャンブル依存症に対して何ら有効な対策を講じえていないことの表れである。
   このような現状の中で、ギャンブル依存症等の悪影響が生じる危険性を孕む新たなギャンブル、しかも近現代法制史上初となる民営ギャンブルを合法化するべき理由などあるはずもなく、カジノを合法化すべきではない。

 

3.多重債務者が増加する危険性が高いこと

 当会は、多くのギャンブル依存症者が抱える多重債務問題の解決支援に日々携わっているものであるが、適切な支援が行き届かず、あるいは手遅れとなってしまったために、本人又は家族の財産や身体、時には生命に対する重大な結果に至る事例に繰り返し遭遇している。
   ギャンブルは、いわゆる「胴元」が利益を得るためのシステムとなっており、平均をすれば、ギャンブルにつぎ込んだ金銭の回収が図られることはなく、損害を被ることが必定のシステムとなっている。カジノ合法化により、仮に「胴元」となる民間業者やカジノの近隣地域に経済効果が生み出されることがあるとしても、それは、カジノ利用者の悲劇や苦しみを前提としているものであり、ギャンブル依存症者・多重債務者等の犠牲者のうえに成り立つものである。
   我が国社会にとって必要なことは、膨大な数のパチンコ・スロット等既存の公営ギャンブルあるいは遊技に対する適切な規制であり、ギャンブル依存症者に対する支援の拡充である。決して、新たなギャンブル、しかも近現代法制史上初となる民営ギャンブルを合法化し、国民の射幸心をあおることなどではない。

 

4.カジノは賭博罪に該当する犯罪であること

 ギャンブルは、偶然の事情に自己の財産を賭けるものであり、労なくして財産を増やしうる可能性を有するものであるため、その強い誘惑に抗い切れずに、自己の財産を全て投げ打ち、さらには金融機関・消費者金融・ヤミ金にまで手を出す者が生じ、その結果、その人やその家族の生活を崩壊させるに至る危険性を孕んでいる。
   賭博罪(刑法185条)の保護法益は、国民一般の健全な勤労観念や国民経済等の公益であるが、カジノはまさに賭博罪が禁止する行為であり、カジノ解禁により、まさに、賭博罪により保護してきた法益が犯されることになる。ギャンブル以外にも、アルコールやインターネットなど、種々の依存症があるが、これらは適法なもの(アルコールについては20歳以上)である一方、カジノは刑法上禁止されている違法なものである。
   カジノ解禁推進法は、近代法制史上初めて民営ギャンブルを合法化するものであり、これまで違法とされてきたものを、あえて法律に例外規定を設けて合法化しようとするものであるところ、そのような必要性は皆無である。

 

5.反社会的勢力の関与について

 カジノを含め、ギャンブルが、世界中で反社会的勢力の資金源となっていることは公知の事実である。日本でもカジノが解禁された場合には、カジノ事業者の利益が反社会的勢力の資金源となる可能性は高い。
   また、カジノ利用者をターゲットとしたヤミ金融や、カジノ利用を制限された者を対象とした闇カジノの運営、さらには、いわゆる「ジャンケット」(VIP顧客をカジノに送客し、カジノ事業者からコミッションを得る者)を典型とする「媒介者」としての関与等、反社会的勢力がカジノ周辺領域での資金獲得活動に参入する懸念も大きい。

 

6.マネー・ロンダリングの温床となる危険性について

 何某かの犯罪等により不当に得た利益であっても、カジノを通すことで、「賭けに勝って得た配当金」となってしまうため、カジノは、マネー・ロンダリングの温床となりやすい。実際、我が国も加盟しているマネー・ロンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において、カジノ事業者はマネー・ロンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。

 

7.青少年への悪影響について

 合法的賭博が「IR方式」によって取り入れられれば、家族で出かける先に賭博場が存在することになるのであるから、青少年らが賭博に対する抵抗感を喪失したまま成長することになりかねない。

 

8.カジノによる経済効果への疑問

 カジノ推進の立法目的として、経済の活性化が掲げられているが、その経済効果は、十分な検証の上に評価されるべきである。
   たとえば、韓国、米国等では、カジノ設置自治体の人口が減少したり、また、カジノ設置自治体が多額の損失を被ったという調査結果も存在する。地域経済自体がカジノ依存体質に陥ってしまえば、将来的にカジノからの脱却を図ることはおろか、副次的弊害を抑え込むためにカジノ規制が必要となった場合でも、自治体財政を脅かす行為として忌避されてしまいかねない。
   これら問題点にもかかわらず、カジノ解禁推進法ではプラス面の経済効果のみが喧伝され、経済的なマイナス要因の可能性について、客観的な検証はほとんどなされていない。

 

9.よって、当会は、IR推進法の廃止を強く求める。

 

 

2017年(平成29年)6月20日
長崎県弁護士会   
会長 川 添   志

 



 本年5月23日,いわゆる「共謀罪法案」が衆議院で,議論が十分に尽くされないまま可決されました。

  当会においては,2017年(平成29年)2月14日付けでいわゆる共謀罪法案に反対する声明を発しました。
  ところが,衆議院での同法案の審議では,当会が指摘した問題点が何ら解決されないまま採決が行われました。

  すなわち,そもそも立法事実があるのかどうか,国連越境犯罪防止条約の要請とはいえないのではないか,処罰対象となる組織的犯罪集団や準備行為の内容が不明確であり一般人が処罰の対象になりかねないのではないか,内心を処罰することとなり日本の刑事法体系の基本原則と矛盾,抵触するのではないか,「計画」を処罰対象とするため,電話,電子メール,SNSサービス,ネット上の書き込みなど全ての意思疎通が警察の捜査の対象となり,そのため,警察が捜査の対象であると判断した場合には,あらゆる団体のあらゆる意思疎通の手段が捜査の対象となる危険性を孕んでいるのではないか,などの問題点は解決されないままなのです。
  加えて,「テロリズム集団」の正確な定義について答弁が避けられ,また,同法案は,既に存在する法律よりも,テロ行為を予防する効果があるか否かという根本的な問題点もあります。

  いわゆる共謀罪法案は,衆議院で可決された現在においてさえ,これらの重要な疑問点が残された法案です。これらの疑問点が残されたまま,参議院においても,十分な審議がされずに採決されることは許されません。
  当会は,共謀罪法案が採決により衆議院を通過したことに強く抗議するとともに,参議院における,同法案の慎重な審議と,同法案の否決及び廃案を求めます。

 

2017年(平成29年)5月31日
長崎県弁護士会   
会長 川 添   志

 



1 提出予定法案の内容

 今般,政府は,組織犯罪処罰法を改正し,過去3度廃案となった「共謀罪」について「テロ等準備罪」と名称を改めたうえで,現在開催中の国会に提出することを検討している旨報道されています。この「共謀罪」は, 政府が2003年から2005年にかけて3回に渡り国会に提出したものの,日本弁護士連合会や野党の強い反対で廃案となったものです。
   報道によれば,政府が提出する予定とされる法案(以下「提出予定法案」という。)では,適用対象となる団体を「組織的犯罪集団」とし,さらに,犯罪の「遂行を二人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰に当たっては,「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という要件を付したとのことです。

 

2 提出予定法案の問題点

 確かに,本当の意味でのテロ等組織犯罪は,未然に防止しなければなりません。
   しかし,この法律はそもそも国際組織犯罪防止条約締結のためのものであるところ,同条約は経済的利益を目的とする組織犯罪を対象としており,テロ対策とは直接の関係はありません。今回の提出予定法案が日本に対するテロリズムの脅威の具体的分析に基づいて得られた立法事実に基づくものであるか否かは不明です。
   また,現在の法律でも,テロ行為の内容となる爆発物や銃器の取り扱いについては,既に共謀罪や準備罪がありますし,組織的な殺人の予備行為も処罰対象となっており,テロ等犯罪が発生する前に未然に防止するための措置は一定程度講じられています。さらに,日本が締結したテロ防止関連条約は13あり,国内法の整備もなされていることからすれば,屋上屋を重ねる必要性がどれほどあるかは疑問です。
   加えて,提出予定法案については,次に述べるように,多くの問題があります。

 

(1)適用対象を明確にしようがなく限定しようがないこと

 まず,「組織的犯罪集団」とは,「その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑若しくは無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪等を実行することにある団体」と定義されていますが,定義自体曖昧であり,明確にしようがありません。「組織的犯罪集団」に該当するかは捜査機関が認定し立件することになるため,捜査の対象となる団体が際限なく拡大される危険性は払拭できず,単なる「団体」を処罰するとした旧法案と変わりありません。犯罪の構成要件が曖昧となることは,構成要件の人権保障機能を害し,罪刑法定主義に反します。
   また,提出予定法案の「準備行為」には「犯罪の実行のための資金又は物品の取得」に加えて「その他」の行為も含まれており,現行法の予備罪・準備罪における予備・準備行為よりさらに前の段階の,それまで犯罪とされていなかった,それ自体危険性のない行為を犯罪化するとともに幅広く含むこととなり,適用範囲を限定したと考えることはできません。

(2)適用対象が広範に過ぎること

 加えて,計画行為の対象となる犯罪は600以上あり,広範な犯罪が対象となっています。その中には,万引き(窃盗),公衆トイレへの落書き(建造物損壊)なども含まれ,おおよそ「テロ等準備罪」の名称にそぐわないものまでもが広範に対象となってしまいます。このように,提出予定法案は,これまで予備罪・準備罪が犯罪として成立していなかった犯罪類型までをも広く処罰するものであり,600以上の「テロ等準備罪」が新たに作られることになります。
   この点,政府は,対象となる犯罪を300程度に絞り込むと報道されています。しかし,これは,国際組織犯罪防止条約の締結には「重大な犯罪」について条約の留保ができないとする政府の説明と矛盾します。

(3)日本の刑事法体系の基本原則と矛盾・衝突すること

 さらに,犯罪の「遂行を二人以上で計画」とは,結局のところ犯罪の合意にほかなりません。提出予定法案の「準備行為」は処罰条件に過ぎませんので,「共謀罪」から名称を変更したところで,行為より前の合意だけで犯罪が成立し,これを処罰の対象とすることには変わりはありません。これは,内心を処罰の対象とせず,犯罪の実行行為があって初めて犯罪として成立させる日本の刑事法体系の基本原則と矛盾・衝突します。
   しかも,対象となる犯罪は,600以上ときわめて広範にわたるもので,矛盾・衝突がさらに拡大します。例えば,刑法典では予備にすら至っていない共謀段階において処罰の対象とされる犯罪が93となります。この数は,刑法典で未遂が処罰される68よりも多く,しかも,未遂すら処罰されないのにそれ以前の共謀の段階で処罰されるものが44となるのです。

(4)思想良心の自由・表現の自由を委縮させること

 提出予定法案が成立すれば,捜査機関の捜査の対象は,計画や合意の存否・内容となるため,広く,個人の会話や電話,電子メールといった人の内心・意思を表明する日常的なやりとりに及ぶことになり,国民の日常生活が国家の監視の対象となりかねません。
   このようなことが許される社会では,共謀罪の構成要件が不明確なことと相俟って,国民は自由に意見表明もできない,ものが言えない社会になり,集会・結社の自由や国民の知る権利等の表現の自由(同21条)が侵害され,民主主義の過程が傷つけられることになります。

 

3 結論

 以上のように,提出予定法案は,組織的犯罪集団を定義し,準備行為を処罰の要件としたことによってもなお,処罰の範囲を明確にしようがなく,また広範に過ぎ,何が処罰の対象となるのか不明であり,行為を処罰するというわが国の刑事法体系の基本原則と矛盾・衝突し,加えて,憲法が定める罪刑法定主義や表現の自由といった基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高く,民主主義の過程を傷つけることになるといった問題があります。
   よって,当会は,政府の提出予定法案に強く反対します。

 

 

2017年(平成29年)2月14日
長崎県弁護士会   
会長 梶 村 龍 太

 


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