決議・声明・意見書

 本日,長崎地方裁判所は,長崎の被爆者が原爆症の認定を求めて起こした集団訴訟につき,被爆者27名中20名勝訴の判決を言渡した。一部の棄却者が出たのは極めて残念であるが,今回の判決は,原爆投下によって筆舌に尽くしがたい苦しみを受け,その後も,長期間,放射線被曝の後遺症に苦しむ被爆者を救済するものであって,大きな意義を有するものである。
 これまで,厚生労働省は,原爆症の認定を申請した被爆者に対して,放射線線量評価システムDS86,DS02に基づく原因確率論を機械的に当てはめ,多くの申請者を切り捨ててきた。そのため2006年5月から全国15地裁で,合計305名の被爆者が裁判に立ちあがった。すでに大阪地裁をはじめ6地方裁判所で,大部分の原告勝訴の判決が下され,国の認定基準の誤りが指摘されてきた。これをうけて厚生労働省は,本年3月に癌など一定の疾患については原爆症と積極的に認定するなど,従来より一歩進んだ「新しい審査の方針」を策定したのであるが,この「新しい審査の方針」は,いまだ真の被爆者救済には程遠いものである。今回の長崎地裁判決は,この「新しい審査の方針」の誤りを明確に断罪した。
 当会は,被爆地長崎の弁護士会として,社会正義の実現と基本的人権の擁護の観点から被爆者問題を考えた時,高齢化した被爆者の救済は国の責任において一刻も早く実現されなければならないと考える。よってこのたびの判決を機に,当会は国及び厚生労働省に対し,次のことを強く要望するとともに,被爆者の悲願である核兵器廃絶に向けて全力をあげて努力することを宣言する。

 

1. 国は,今回の長崎判決に対し控訴することなく,棄却者を含め原告全員をすみやかに原爆症と認定すること。
2. 全国の裁判所で係争中の全原告について一括全面的解決を図ること。
3. 厚生労働省は現「新しい審査の方針」について,真の被爆者救済にかなうよう基準を見直すこと。

 

2008(平成20)年6月23日
長崎県弁護士会
会長 永田雅英



1  従来,我が国の刑事裁判では,捜査段階において密室で取調べられ作成された被疑者の自白調書に強く依存して事実認定が行われてきたが,その結果,多くの冤罪事件を生み出してきた。
平成19年2月23日には鹿児島地方裁判所において,公職選挙法違反被告事件に関し,被告人全員を無罪とする判決が言い渡された(志布志事件)。また,平 成14年に富山県氷見市において発生した強姦事件においては,犯人とされた者が実刑判決を受けて2年以上服役までした後に,真犯人の存在が発覚し,再審で 無罪となった(氷見事件)。さらに,平成元年に佐賀県杵島郡北方町(現武雄市)において発生した女性3名殺害事件においても,一審・二審とも無罪判決が言 い渡されている(北方事件)。
このような事態が発生する原因は,密室における取調べが捜査官による威圧,利益誘導などの違法・不当な取調べに結びつき,虚偽の自白を誘発したことにある といわざるを得ない。過去にも,いわゆる免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件などの極めて重大な事件を含む数多の冤罪事件が発生してきた。それにも かかわらず,最近においても上記のような冤罪事件が繰り返されるということは,冤罪事件に対する反省・対策が十分に行われてこなかったということに他なら ない。
今後二度とこのような事態が発生しないようにするためには,取調べを密室で行うことなく外部の者が監視しうる状態で行われるようにすること,すなわち,取調べの「全過程」を可視化(録画・録音)するという方法以外にはあり得ない。
2  また,平成21年5月までに開始される裁判員制度を円滑に実施するという観点からも,取調べの全過程の可視化は必要不可欠である。
従来の密室での取調べにおいては,そこで何が行われたのかについての客観的証拠がないため,自白の任意性・信用性に関する審理にあたっては,取調官に対す る証人尋問や被告人質問に膨大な時間を費やさざるを得ず,必然的に公判の長期化をもたらしてきた。裁判員制度のもとでは,このような長期間かつ難解な審理 の負担を裁判員に課すことは避けなければならない。
この点,取調べがどのように行われたかを明らかにするためには,取調べの全過程を可視化することが最も直截であり,審理期間の短期化や適正な事実認定にも資するものである。
3  なお,検察庁においても,平成18年7月から,取調べの一部の録画・録音を試行的に実施している。
しかしながら,これは,検察官の裁量により,検察官による取調べの一部を録画・録音するものに過ぎない。そうであれば,被疑者が初めて自白する際の取調状 況が録画・録音されないことも容易に推測されるところであり,これでは,かえって取調べの実態の評価を誤らせる危険が高い。
現に東京地裁の平成19年10月10日判決では,検察官に対する自白状況を10分間余り録画したDVDの証拠価値について,撮影時期・撮影時間等を理由に 任意性立証の有用な証拠として過大視することはできないとの判断がなされている。この判断は,検察庁が試行する取調べの一部の録画・録音では不十分である ことを端的に示し,取調べの全過程の可視化の必要性を強く示唆するものである。
4  また,警察庁においても,先般,取調べを監督する専門部署を設置する方針を明らかにした。しかしながら,警察はこれまで密室における自白強要を野放しにしてきたのであり,かかる組織の内部での監督では,違法・不当な取調べの抑止は期待できない。
5  諸外国をみれば,イギリス,アメリカ,オーストリア,香港,台湾,韓国等などでも取調べの録画・録音が実施されている。取調べの録画・録音の結果,取調べ に支障をきたしたとか,治安が悪化したなどという例は聞かず,自白の任意性・信用性をめぐる争いはほぼみかけなくなっているという。
このような世界の趨勢に照らしても,我が国においても早急に取調べの可視化を実現させるべきである。
6  日本弁護士連合会においては,平成15年の松山の人権擁護大会及び平成19年の第58回定期総会において取調べの可視化を求める決議がなされ,九州弁護士 会連合会においても,志布志事件を背景に,平成17年の鹿児島大会において,「秘密交通権の侵害を許さず,取調べの可視化を求める宣言」をしているが,い まだ取調べの録画・録音は実現されていない。
7  よって,本会は,検察官による取調べのみならず,警察での取調べも含めて取調べの全過程の可視化の一日も早い実現を求める。

2008(平成20)年2月22日
長崎県弁護士会   
会長 山下俊夫