長崎県弁護士会

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 選択的夫婦別姓制度の導入や非嫡出子の相続分差別撤廃、離婚後の女性の再婚禁止期間の撤廃等の内容が盛り込まれた民法改正案は、1996年(平成8年)2月26日の法制審議会による答申にもかかわらず、現在まで14年もの間放置され続け、いまだその実現には至っていない。

 しかしながら、家族法分野における差別的法規定の改正は、早期に実現されなければならない緊急の課題である。日本政府は、1993年(平成5年)以来、国連の各種委員会から、家族法分野の法改正を早期に行うべき旨の勧告を幾度となく受けてきている。2009年(平成21年)には、国連女性差別撤廃委員会において、従前の勧告にもかかわらず、なお差別的法規定の撤廃が進んでいない日本の現状に対する懸念が示された上で、選択的夫婦別姓制度を導入すること、非嫡出子の相続分差別を撤廃すること、女性の再婚禁止期間を撤廃すること、男女の婚姻年齢を統一すること等の具体的な提案とともに、法改正のための早期の対策を講じることを日本政府に求める旨の勧告が出されている。
現行民法は、夫婦同氏制度を採用した上で、夫又は妻のいずれが改氏するかについて、夫婦に一応の選択権を与えているが、厚生労働省発表の2006年度(平成18年度)「婚姻に関する統計」によれば、2005年(平成17年)に婚姻した夫婦の96%以上が夫の氏を選択しており、ほとんどの夫婦で女性が改氏しているのが現状である。改氏を望まない女性にとってみれば、現行民法の規定は、改氏を事実上強制するものにほかならない。

 そもそも氏名とは、「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するもの」(最高裁第三小法廷昭和63年2月16日判決)である。したがって、婚姻後も自己の氏を継続使用したいとの希望は、人格権を構成する権利の一部として、また個人の尊厳を重んじる憲法13条等に照らしても、法制度上十分に尊重されなければならない。女性の社会進出が進む中で、改氏により女性が被る社会生活上、職業上の不利益もまた、軽視できるものではない。

 また、現行民法は、非嫡出子の相続分について、嫡出子と区別してその2分の1とすることを定める。しかしながら、子どもは自らの出生について何の責任も負わない。にもかかわらず、子ども自身の意思や努力によっては変えることのできない事実をもって嫡出子であるか非嫡出子であるかを定め、これを区別して不利益な取り扱いをすることは、憲法14条、24条2項等に照らして許されるべきでない。最高裁判所においても、違憲の疑いが繰り返し指摘されているところである。

 さらに、現行民法は、女性が離婚の日から6か月の間に再婚することを原則として認めない。その目的は、父性の推定の重複を回避して、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防止することにあるというが、科学技術の目覚ましい発展を見ている今日では、DNA鑑定等を利用し容易に父子関係を確定することが可能である。したがって、これを維持すべき理由は既に失われているから、女性にのみ再婚禁止期間を設けることは、憲法14条、24条に照らして許されるべきでない。また、婚姻年齢について男女差を設けるべき合理的理由も見当たらないから、憲法14条、24条2項に照らせば、男女の婚姻年齢は当然に統一されるべきである。

 当会は、選択的夫婦別姓制度の導入や非嫡出子の相続分差別撤廃、離婚後の女性の再婚禁止期間の撤廃等を内容とする民法(家族法)の改正が、速やかに可決実現されることを強く求めるものである。

 

2010年(平成22年)8月18日

長崎県弁護士会
会長 原 章夫