長崎県弁護士会

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 厚生労働省は、本年10月16日、同省のホームページにおいて、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)の設置を突然発表し、その僅か3日後の同月19日に第1回検討会が、以後同月30日に第2回検討会が、11月8日に第3回検討会が開催された。

 北海道新聞(本年10月18日朝刊)や中日新聞(本年10月25日)の報道などによれば、「検討会」は来年度の予算編成に間に合わせるために年内にも報告書をまとめる予定であり、しかもその内容は生活保護の給付の基本となる最低生活費の基準額の引き下げを提言する見通しである、という。

 しかし、生活保護基準は、生活保護法8条に基づき厚生労働大臣が定めるものであるが、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障に直結する重大な基準である。

 しかるに、生活保護基準の引き下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、所得の少ない市民の生活全体にも大きな影響を与える。すなわち、生活保護基準は、介護保険の保険料・利用料、障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。したがって、生活保護基準の引下げは、これらの施策の適用を受けられなくなる市民の層を拡げることを意味する。

 このように、生活保護基準の引き下げは、日本で生活する低所得者全般に直接の影響を及ぼす極めて重大な問題であり、十分に時間をかけて慎重に検討されるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取してなされるべきである。

 「検討会」においては、低所得者層の消費支出統計と現行生活保護基準とを対比した資料が配付されており、「検討会」の結論を「引き下げ」方向に誘導しようとするものとの疑念を生じさせている。しかし、わが国では、違法な窓口規制が広汎に行われている結果、生活保護の補足率が低く、生活保護基準以下の収入で生活する世帯も多数存在する。このような現状において、世帯の消費水準との均衡を理由として生活保護基準を引き下げることは、日本における生存権保障水準を際限なく引き下げていくことにつながりかねず、極めて問題が大きい。

 しかも、政府がいう「再チャレンジ」のための施策が極めて不十分な中、生存権保障水準を一方的に切り下げることは、格差と貧困の固定化をより一層強化し、努力しても報われることのない、希望のない社会を招来することにつながりかねない。

 当会は、厚生労働省及び「検討会」に対し、生活保護利用者の声を十分に聴取し、徹底した慎重審議を行うことを強く求めるとともに、安易かつ拙速な生活保護基準の切り下げには断固として反対するものである。

 

2007(平成19)年11月22日

長崎県弁護士会
会長 山下俊夫