長崎県弁護士会

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 山口県光市で発生した、いわゆる「光市母子殺害事件」は、現在、最高裁から差し戻されて広島高等裁判所で審理が行われている。

 この事件に関し、本年5月29日、日本弁護士連合会宛に「元少年を死刑にできぬのなら、元少年を助けようとする弁護士たちから処刑する。」などと記載された脅迫文が模造銃弾のようなものとともに届けられ、また、朝日新聞社及び読売新聞社にも類似の脅迫文が届けられている。当会は、こうした行為に厳重に抗議するとともに、弁護人の果たすべき役割に対する理解を求めるべく、本声明を発表する。

 本事件は、理不尽にも母親と幼い子どもの命が失われた大変痛ましいもので、被害者の無念とご遺族の心情も察するに余りある。また、この事件は社会的にも大きな影響を与えている。

 しかしながら、刑事被告人の弁護人依頼権などの諸権利は、過去に刑事手続過程で不当な身柄拘束、自白の強要など、様々な人権侵害が行われてきた過ちに対する反省を踏まえて適正な刑事裁判を実現するためにたどり着いた人類の英知の結晶である。

 憲法37条は、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定している。被告人が適正な裁判を受けるためには弁護人依頼権の保障が必要不可欠であり、これはいかなる時代にあっても、どのような事件においても保障されなければならない。そして、弁護人は、被告人のために最善の努力をすべき義務を負っており、被告人の適正な裁判を受ける権利の実現のためには弁護人の自由な活動も保障されなければならない。これが十分に保障されることによってはじめてえん罪の防止の他、罪刑均衡、被告人の更生なども現実的なものになり、さらには公共の安全の確保にもつながるものである。

 また、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は、第1条において人権と基本的自由を適切に保護するため「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続のあらゆる段階で自己を防御するために自ら選任した弁護人の援助を受ける権利を有する」と定め、第16条において「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たしうること、自国及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談しうること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴あるいは行政的、経済的、その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされていないことを保障するものとする」と定め、さらに第18条において「弁護士が、その職務を果たしたことにより、弁護士の安全が脅かされるときには、弁護士は、当局により十分に保護されるものとする」と定めている。これは、民主主義社会における弁護人依頼権と自由な弁護活動の重要性が国際的にも承認されていることを端的に示すものである。

 今回の脅迫行為は、上記のような重要な役割を担う弁護人の弁護活動を暴力で威嚇し、被告人の弁護人依頼権及び適正な裁判を受ける権利を踏みにじろうとする卑劣な行為であり、断じて許すことができない。

 当会は、今回の脅迫行為に厳重に抗議するとともに、弁護人依頼権など憲法で保障された被告人の諸権利と刑事弁護人の活動に対する市民の皆様の理解を広く求め、かつ、今後とも刑事弁護人がその職責を全うできるよう、全力を尽くす所存であることをここに表明する。

 

2007(平成19)年8月29日

長崎県弁護士会
会長 山下俊夫