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  1. 多重債務の現状

     全国信用情報センター連合会の調査によれば、2006年(平成18年)5月22日現在、債務を抱えている約1400万人のうち19.1%にあたる約267万人が3ヶ月以上返済を怠っており、5社から借入のある利用者は約229万人にものぼるとされている。

     また、自己破産(自然人)の件数は、2003年(平成15年)に24万2357件と史上最高を記録し、2005年(平成17年)には18万4422件と減少したが、依然として高水準にある。

     さらに、警察庁の調べによれば、2005年(平成17年)の全国の自殺者は、3万2552人で、そのうち、経済、生活苦による自殺者は7756人で、自殺者の4人に1人は経済、生活苦による自殺である。

     このように、多重債務の現状は深刻化している。

     

  2. 多重債務の根源はクレジット・サラ金・商工ローンの高金利にあること

     出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)は、貸金業者が、年29.2%を超える金利を約定、要求、受領することを禁止し、違反すると刑事罰がある(同法5条2項、3項)。

     これに対し、利息制限法は元本10万円未満は年20%、元本10万円以上100万円未満は年18%、元本100万円以上は年15%を制限金利として、これを超える金利部分は無効とする(利息制限法1条1項)が、同法には罰則がない。また、貸金業の規制等に関する法律(貸金業規制法)43条1項は、一定の要件下において、利息制限法超過部分の支払いを有効とみなす「みなし弁済」の規定を定めている。そのため、クレジット・サラ金・商工ローンの多くは、利息制限法の制限金利を超えるが、出資法の上限金利以下のいわゆる「グレーゾーン金利」で貸付を行っている。

     例えば、サラ金から50万円を年29.2%で借りて、毎月金利分だけを支払い続けても元本は50万円のままであるが、利息制限法の制限金利年18%で引き直し計算をすると、5年5ヶ月で完済となる。このように当初から利息制限法の金利以下で貸付がなされれば、多くの利用者が多重債務状態から脱出できると考えられる。

     そこで、深刻な多重債務問題を解決するためには、出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げるべきであり、貸金業規制法43条のみなし弁済の規定は廃止されるべきである。

     

  3. 金利引下げとヤミ金流出論

     この金利引下げの主張に対しては、金利引下げの結果、合法マーケットからはじき出される借り手が多く生み出され、その結果多くの借り手が経済的破綻に陥ることになるのみならず、ヤミ金融がはびこるとの批判がある。

     しかし、2000年(平成12年)の出資法改正による上限金利の引下げ以前からヤミ金融組織は活動しており、ヤミ金融が増殖した時期には、消費者金融の与信も拡大していたのであって、上限金利の引下げとヤミ金融の蔓延との間には因果関係はない。そもそも、ヤミ金融に対しては厳しい取締と徹底的な摘発こそが必要であり、ヤミ金融が発生するから金利を下げてはならないというのは、本末転倒である。

     金利を下げることにより信用リスクの高い層が借りられなくなるとしても、その信用リスクの高い層とは結局多重債務者のことであり、多重債務問題解決のためには、低利の貸付けを行う公的な支援制度の創設や弁護士などの適切な相談窓口の拡充こそ検討されるべきである。

     

  4. 自由民主党案について

     ところが、自由民主党は、2006年(平成18年)9月15日、金融調査会などの合同会議を開き、最長5年間のグレーゾーン金利の存続、少額・短期融資及び事業者向け融資に25.5%の特例金利を認め、さらに利息制限法の金額刻みの見直し、すなわち、10万円以上50万円未満の制限利率を現行の年18%から20%に、100万円以上500万円未満の制限利率を現行の年15%から18%に引き上げるという案を盛り込んだ。自由民主党は、19日の政務調査会において、これらを含んだ「貸金業法の抜本改正の骨子」を承認し、26日招集の臨時国会に提出する予定であるという。

     上記のとおり、多重債務問題の解決は緊急の課題であって、グレーゾーン金利を最長5年間にもわたって存続させることは、容認できるものではない。また、少額・短期とはいえ特例を認めることは、借換えの繰返しにより、大口長期の貸付けとなってしまう危険性があり、金利規制は骨抜きとなる。事業者向け融資についても、手形の切り返しを反復することで発生した商工ローン被害を考えると、結局金利規制は骨抜きとなる。

     しかも、日本弁護士連合会の高金利引き下げの署名は300万人を超え、例外なき金利引き下げの要請は国民世論を形成しており、自民党の改正動向は国民世論にも真っ向から逆行するものであるといわざるをえない。

     また、利息制限法の金額刻みの上記のような見直しは、サラ金利用額の大半は50万円程度、商工ローン利用額の大半は100万~500万円程度であるため、多くの貸金業利用者にとって恒久的な上限金利引き上げとなってしまう。そもそも、立法時より市中金利が下がっているのだから、利息制限法の金利引下げはあっても、引き上げはあり得ない。

     したがって、当会は、上記のような長期間のグレーゾーン金利の存続、少額・短期融資の特例、事業者向け融資の特例、利息制限法の金額刻みの見直しに反対し、政府及び国会に対し、直ちに、例外のない出資法の金利を引き下げ、貸金業規制法43条のみなし弁済規定を廃止することを求めるものである。

     

2006年(平成18年)9月20日

長崎県弁護士会
会長 水上正博
ひまわり相談ネット

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