長崎県弁護士会

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 政府は、衆議院解散により一旦は廃案になった「少年法等の一部を改正する法律案」を次期通常国会に再提出する予定にしている。

 

 この改正法案は、次の4つを骨子としている。

 

  1. (1)警察官による触法少年及び虞犯少年に対する警察の調査権限を法律上明記すること。

  2. (2)少年院に送致可能な少年の下限年齢を撤廃すること。

  3. (3)保護観察中の少年が保護観察における遵守事項に違反し、その程度が重い場合に、家庭裁判所の決定により当該少年を少年院等に送致できることとすること。

  4. (4)非行事実に争いがない場合であっても、一定の重大事件において家庭裁判所が職権で弁護士である国選付添人を選任できることとすること。

 

 長崎県弁護士会は、今回の改正法案につき、(4)の国選付添人の選任の制度の新設については評価できるものの、その他の点については下記の理由の通り少年法の立法趣旨を大きく後退させるものであり、その改正法案に強く反対するものである。

 

  1. 触法少年及び虞犯少年に対する警察官の調査権限の明記について。

     現行法上、触法少年や14歳未満の虞犯少年に対する調査や処遇は、福祉的な観点から児童相談所が優先的に取り扱い、例外的に家庭裁判所の保護処分が相当と判断した場合に家庭裁判所に送致することになっている。たとえ触法少年等への調査や処遇の現状には改善が必要な点があるとしても、それに対しては児童相談所をはじめとした福祉機関自身を強化して対処することに努力すべきであり、警察の調査権限を強化することにより解決を図ろうとすることは少年に対する教育という目的からは外れた考えである。とりわけ、被暗示性・迎合性が強い低年齢の児童に対し、児童の福祉や心理に専門性を有してはおらず、専ら犯罪捜査が主業務である警察官が中心となって密室での取調べを行えば、誘導等による誤った供述を引き出す危険性が極めて高く、真相解明が阻害される恐れがある。

     また、虞犯事件において、その少年が将来犯罪を犯すおそれがあるか否かといった事情は、福祉的な観点からの判断が不可欠であり、捜査機関である警察官の職務になじむものではない。

     なお、触法少年に対する警察官の調査権限強化の意見が出てくる背景には、当県における長崎事件や佐世保事件のような重大事件が増加しているのではないかという不安があると思われる。

     しかし、これまでに殺人事件で補導された触法少年を例にとってみても、警察庁作成の「犯罪統計書」及び「少年非行等の概要」による統計によれば、特に増加の傾向にあるとは認められない。重大事件が増加しているのではないかという不安は、マスコミ報道のあり方や大人の側の反応の変化によって植えつけられ、誇張されたイメージによるものであると思われる。触法少年に対する警察官の調査権限強化は、その前提としての立法事実を欠いていると言うべきである。

     

  2. 少年院に送致可能な少年の下限年齢の撤廃について。

     改正法案は、現在14歳以上となっている少年院に送致可能な少年の下限年齢を撤廃しており、その結果として法的には、小学生でも少年院に送致できるという内容になっている。

     然しながら、14歳未満の少年に対しては、少年院における集団的規律による矯正教育が有効に機能するとは到底思われない。低年齢の少年を家族から分離して更生教育をはかる場合、家庭的な環境のもとで、人間関係を中心とした人格形成と生活力とを身につけることが優先されるべきである。現行法はこのような理念のもと、児童自立支援施設を設けているのである。

     今回の改正の背景には、14歳未満の少年であっても相当期間の閉鎖的な処遇を行うべき場合があるとの考えがあると思われる。

     しかし、そのような低年齢の少年への対応は、先ず児童自立支援施設を充実強化して対処すべきである。小学生であっても、少年院に送致できるとする改正法案の内容には、到底賛成できない。

     

  3. 保護観察中の遵守事項違反に対する少年院収容について。

     改正法案は、保護観察中の少年が遵守事項に違反し、その程度が重い場合には、家庭裁判所の決定により、当該少年を少年院に送致することができるとする制度を設けようとしている。

     しかし、一旦、家庭裁判所において保護観察処分が言い渡されたにもかかわらず、その後の単なる遵守事項違反という事実のみを理由として、当該少年に対して改めて少年院に送致するとの処分を可能とする制度は、二重処罰の禁止に違反するおそれがある。

     なお、このような改正の背景には、保護司のもとに面接に来なくなった少年やその他遵守事項違反を繰り返す少年への対応が困難であるとの認識があるようである。

     しかし、遵守事項を守らなかったら施設に収容されるという威嚇の下では、真に少年の立ち直りを図ることは困難である。問題の深刻な少年については、保護司に委ねるのではなく、保護観察官の専門的見地からのきめ細かい指導援助によって対処すべきである。

     また、少年が将来犯罪を犯すおそれがある場合には、犯罪者予防更正法第42条第1項の虞犯通告制度による対応が可能である。

     このような、現行の法律と制度とを活用しないまま、少年院送致を威嚇手段として保護観察の実効性を確保しようとするのは失当である。

     

  4. 国選付添人制度について。

     国選付添人制度を導入しようとする改正については、一定の評価ができる。

     しかし、対象事件が一定の重大事件に限定されていることについては、今後、更なる拡充を検討すべきである。

     また、少年が終局処分決定前に釈放された時には国選付添人選任の効力が失われるという点については、少年の更生のための有力な援助者を失ってしまうことになるという点から反対である。

     

2005年(平成17年)12月20日

長崎県弁護士会
会長 水上正博
ひまわり相談ネット

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