長崎県弁護士会 会員 黒岩英一
令和7年1月17日、旧優生保護法に基づく救済法(以下、「救済法」といいます。)が施行されました。
旧優生保護法は1948年に制定され、1996年まで施行されていました。生殖を不能にする手術である優生手術(不妊手術)は、1993年までおこなわれていたようです。つい32年前までこのような手術がおこなわれたことについては、率直に驚きを禁じ得ません。
旧優生保護法第1条は、「この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。」と規定されています。時代背景もあるとは思いますが、条文にある「優生」や「不良」といった偏った価値観を含む言葉には、強い違和感を覚えます。とはいえ、単に過去を批判するのではなく、このことを反面教師として、将来の世代から、我々は、そのような評価を受けることのない社会を目指さなければなりません。
この優生手術(不妊手術)や人工妊娠中絶は、遺伝性疾患やハンセン病、精神障害がある人などを対象に行われました。これらの方々が特定疾病等を理由に人工妊娠中絶を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたのでした。
「憲法13条及び14条1項に違反する本件規定に基づいて、昭和23年から平成8年までの約48年もの長期間にわたり、国家の政策として、正当な理由に基づかずに特定の障害等を有する者等を差別してこれらの者に重大な犠牲を求める施策を実施してきた」と断じた最高裁の判決を受けて制定された救済法は、旧優生保護法により不妊手術の対象となった方やその配偶者・遺族に対して、国がその責任を認めて謝罪し、一定の補償金を支払う、というものとなっています。
国の調査によれば、少なくとも2万5千件もの不妊手術がおこなわれたとされており、長崎県内でも一定の対象者がいるとされています。救済法に基づく補償金の請求には、必要な書類を揃えて都道府県の窓口に請求書を提出する必要がありますが、都道府県窓口で希望すれば弁護士によるサポートが受けられます。
この場合、弁護士会の提供する名簿に登載されている弁護士が、サポート弁護士として選定され、請求に関するサポートを行います。
補償金の請求には書面の作成や資料の調査、公的書類の取得などを行う必要がありますが、これらをサポート弁護士が行いますので、該当される方は請求の困難さを理由に請求をためらわないでいただければと思います。サポート弁護士の費用は無料で、請求者本人には負担させないこととなっています。
B型肝炎の給付金も同様に国が責任を認め補償金を交付するスキームが構築され、対象者が多くいるものと推計されているにもかかわらず、実際に請求する方はその半分にも至っていないのが実情です。
これから、国や自治体からも周知がおこなわれると思いますが、もし周りに補償金の請求の対象なる方がおられたら、これらの情報を伝えてもらえれば幸いです。
(2025年6月15日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)