長崎県弁護士会

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長崎県弁護士会会員 堀 大祐

 

 令和7年9月8日、佐賀県警は記者会見において、科学捜査研究所に所属する技術職員が、7年余りにわたり、DNA型鑑定を実際には行っていないのに鑑定を行ったように装う虚偽内容の書類を作成する等の不正行為を繰り返していたと公表しました。佐賀県警によると、不正行為は130件確認され、うち16件の鑑定結果は証拠として佐賀地方検察庁に送られていました。
 DNA型鑑定は、血液、唾液、皮膚片や毛髪などの試料からDNAを抽出し、その塩基配列のうちに同じ配列が繰り返される回数が人によって異なることを利用して個人を識別する手法です。現在では鑑定の精度は飛躍的に向上し、同じ型の別人である確率は「5,650,000,000,000,000,000人に1人」というものになっています。非常に高い精度で個人の識別ができることから、捜査の場面では捜査対象の特定や除外等に、裁判では犯人性などの重要な証拠として活用されています。
 DNA型鑑定によって犯人と被告人のDNAが同一であると判断されれば、被告人が犯人であることの決定的な証拠になりえます。それだけに,過誤が生じた場合には、事実認定を誤る決定的要因になりかねないので,その手続の公正性・透明性・信用性を確保することが極めて重要となります。
 この問題が如実に表れたのが、「天文館事件」と呼ばれる、DNA鑑定の信用性が争われた事件です。
 第1審では、科捜研のDNA型鑑定結果が信用できると判断されて有罪判決となりました。
 しかし、控訴審においてDNA鑑定を再度実施したところ、科捜研とは異なる結果となり、控訴審では、科捜研による鑑定資料管理の杜撰さ、検査記録の不備、鑑定技術が稚拙だった可能性等が指摘され無罪の判決(平成28年1月12日)が出されました。
 これを受けて、警察庁は、同年1月27日、DNA鑑定が適正に実施されることはもちろん、鑑定経過等の記録も適切に作成、保管されなければならない旨の通達を出しています。このように、DNA鑑定に問題があれば冤罪を生む危険性があると認識されていたにもかかわらず、佐賀県警では本件不正行為が長年見落とされてきたことになります。
 佐賀県警は、内部調査により本件不正行為につき捜査及び公判への影響はなかったと結論づけ、第三者機関による検証等の必要性を繰り返し否定しています。
 しかしながら、本件不正行為は科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものであり、佐賀県警の態度は本件不正行為が刑事司法における適正手続や真実発見を害する問題であることを軽視するものといえます。
 科学鑑定自体は有用であり、その信頼を回復させるためにも、第三者機関により、本件不正行為が捜査及び公判に与えた影響を検証、再発防止に向けて本件不正行為を防止できなかった原因の究明、佐賀県警以外の捜査機関で同様の不正が行われていないかの確認を行う必要があります。

 

 (2025年12月21日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)