長崎県弁護士会

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長崎県弁護士会 会員 原 章夫

 

 最近、ニュースで懐かしい顔をよく見かけます。大学の同級生、松宮孝明立命館大学大学院教授です。日本学術会議の会員として、同会議が推薦した105人から任命されなかった6人のうちの1人です。
 この問題については、日本弁護士連合会(日弁連)も会長声明を出していますが、ここでは法律家としての立場に加え、私的に松宮教授を知る者として、この問題を考えてみます。
 まず、前提として、日本学術会議会員も公務員です。公務員の採用については、さまざまな決まりがあり、任命権者が自由に採用を決めることができるわけではありません。例えば、県や市の職員は、公正な競争試験により能力の実証に基づいて採用を行うとされており、知事や市長が勝手に採用を決めることなど許されません。
 そして、日本学術会議会員は、同会議の推薦に基づき任命するとされているのですから、内閣総理大臣が推薦を拒否できないのは当然です。かつて、政府も、内閣総理大臣の任命は「形式的任命」にすぎず、推薦があればそのまま任命すると確認してきました。
 ということは、内閣総理大臣が推薦を拒否するためには日本学術会議法の改正が必要で、法改正をせずに推薦を拒否するのは法律違反となりそうです。
 ちなみに、推薦は、優れた研究または業績がある科学者のうちから選考されるとされています。私の身びいきを差し引いても、松宮教授は刑法の分野で、推薦に値する科学者であることは認めてよいと思います。
 さらに、学問の自由の問題もあります。学問の自由は当然に研究発表の自由を含むとされ、その点では表現の自由と重なります。
 その研究発表としてなされた発言のために任命の拒否という不利益な扱いがされたのであれば、それは学問の自由に対する侵害と言えるでしょう。そういえば、何年か前、松宮教授と会ったとき、国会で話をしてきたと言っていました。共謀罪創設に反対する意見でした。
 もっとも、政府は任命しなかった理由が候補者の過去の発言にあるなどとは言いません。それを認めれば、学問の自由の侵害であることがあまりに明らかになるからです。
 政府の説明は、総合的・俯瞰(ふかん)的な活動を確保する視点という漠然としたものです。そんな漠然とした理由だと、将来、不利益な扱いを受けるかもしれないとの懸念から、政府に批判的な研究発表を「忖度(そんたく)」して差し控える科学者が出てくるかもしれません。それを萎縮的効果といい、それ自体、表現の自由(研究発表の自由)に対する脅威です。
 ところで、私の手元には、いつか有名になったときの記念にと言って、謹呈のサインをもらった松宮教授の著書があります。こんなことで有名になるとは思わなかったのですが。

 

(2020年11月8日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)

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