長崎県弁護士会

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 現在、刑事手続きのIT化の議論が、法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」。以下「本検討会」という。)で進められている。本検討会では、刑事手続において情報通信技術を活用する方策に関し、現行法上の法的課題を抽出・整理した上で、その在り方が検討されている。
 本検討会における論点項目には、主に「書類の電子データ化、発受のオンライン化」、「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が挙がっており、後者の中に「被疑者・被告人との接見交通」が論点項目として掲げられている。

 

 現在、日本弁護士連合会では、逮捕段階における公的弁護制度の創設が議論されている。逮捕段階からの被疑者の権利擁護及び充実した弁護活動を可能にするためには、逮捕されて間もない時点において迅速に接見を行う必要がある。
 長崎県内には、離島にある壱岐警察署、五島警察署、新上五島警察署、対馬南警察署、対馬北警察署があり、利益相反等で島内の弁護士が受任できない場合などに島外の弁護人が接見する際、フェリー・飛行機の便が少ないため接見までに多大な時間を要することがあり、気象条件によってはその欠航等により物理的に接見できない状況が数日間続くこともある。離島ではない警察署であっても、弁護人の事務所所在地によっては接見までに時間を要することも多い。
 このような事情から、迅速な接見を可能にするためには、オンラインを活用した接見交通を実現する必要性が高い。
 また、迅速な接見が必要であるのは逮捕段階に限られず、起訴後であっても同様であり、離島にある厳原拘置支所及び五島拘置支所に島外の弁護人が接見する場合や、離島ではないが弁護人の事務所所在地から遠い拘置支所で接見する場合についてもオンラインを活用した接見交通を実現する必要性が高い。
 さらに、身体を拘束された被疑者・被告人が十分な防御の準備をするためにも、書類の閲覧・授受を含む接見交通のオンライン化の必要性がある。
 当会は、オンラインを活用した接見交通の必要性を十分に意識した議論が今後も本検討会で継続的になされていくことについて、重大な関心を抱いている。

 

 本検討会における議論の中で、オンラインを活用した接見交通については、設備や予算などの問題が指摘されているようである。しかし、新たな設備の整備等が必要なのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。
 身体を拘束された被疑者・被告人が弁護人と遅滞なく通信し、協議するための十分な機会、時間及び設備を提供されなければならないことは、国連被拘禁者処遇最低基準規則にも定められているところであり、被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も当然に国の責任において提供されるべきである。
 また、オンラインを活用した接見交通のための設備を整備することは、今般の新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックが発生した際に、感染症の感染拡大を防止する対策としても有効である。

 

 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は、本検討会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンラインを活用した接見交通が実現されることを強く要望する。

 

2022年(令和4年)1月27日

長崎県弁護士会   
 会長 中 西 祥 之